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まんが日本昔ばなし

鶴の屋敷

昭和56年11月28日放映

演出:三善和彦

原動画・セルワーク(貼り絵):三善和彦(& BOB ANIMATION FILM)

美術(背景):西村邦子

文芸:沖島勲

あらすじ

 昔、あるところにおじいさんとおばあさんがいた。おじいさんは、木で鳥を彫るのが上手だった。ある日おじいさんは、木を切りに行った山の中で大層美しい鶴を見た。おじいさんは、その晩から鶴を彫り始めた。幾日もかかって、とうとうおじいさんは大きく美しい真っ白な鶴を彫り上げた。おばあさんにも、それはまるで生きているように見えた。おじいさんは鶴に乗ってみたくなり、「明日これに乗って飛んでみよう。」と言った。すると突然鶴が、「おじいさん、明日は風が吹くよ。」と言った。おばあさんはびっくりするが、おじいさんは気にもとめない様子だった。


 翌日、未だ前夜の鶴の言葉が気にかかるおばあさんだったが、おじいさんが上機嫌でいるのを見て、「いってらっしゃい」と見送った。おじいさんは鶴に乗って大空に舞い上がった。家や畑が、見る間に小さくなった。鶴に行き先を聞かれたおじいさんは、南に行ってみようと答えた。大空を思いのままに飛び回り、おじいさんはとてもいい気持ちだった。ところが晴れていた空に真っ黒な雲が広がると、風が吹き始めた。鶴は突然飛び続けることができなくなり、あっと言う間におじいさんとともに森の松の木の上に落ちてしまった。


 おじいさんは、家で待つおばあさんの元にはそれきり帰ってこなかった。今では、その松の木のある所を「鶴の屋敷」と呼んでいる。

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原作

 原作は、九州太宰府に伝わる話で、またの名を「とおのこがの伝説」といいます。原作では鶴が発した警告を、おじいさんもおばあさんも全く気に留めていないように書かれていますが、私の演出では、おばあさんだけが気にかけているものの、あんまりおじいさんが喜んでいるで「怪我の無いよう、行ってらっしゃい。」と言って送り出すようにしました。

 

 原作のテーマは、あくまでも情け容赦のない自然と対峙する人間への警告であり、その厳しさだと思います。しかし誠に個人的な話ですが、ちょうどこの話を頂いた頃祖母が亡くなり、祖父が亡くなって以来ずうっと一人で暮らしていた祖母のことを考えない訳にいきませんでした。ですから映像的には、比較的おばあさん側に視線を向けた演出になっています。

 

 おじいさんが先立っていくという運命をやがておばあさんが受け入れていく様子を描き、同時に遺されるという現実の残酷さを表現したくて、ラストシーンでは鳥の大群が鳴きながら松の木の上を飛び去って行くという映像を入れました。

解説

 演出家としては4作目で、急激に演出のおもしろさに夢中になり始めた頃の作品です。それとともにアニメーションの手法についてもいろいろ実験したくなっていた頃で、キャラクターは全て和紙のちぎり絵で制作しています。

 

 それまでも「まんが日本昔ばなし」には名作「天福地福」という和紙のちぎり絵を使った作品があったのですが、キャラクター全体が和紙というわけではなく、しかも「鶴の屋敷」の場合、終盤の飛翔シーンを全てこの手法で緩やかな動きをアニメートしようというのですから、無謀というほかありません。スタッフにも、とんでもない苦労を強いてしまったと、今になって思います。

 

 動画に和紙を重ねて鉄筆でトレースし、和紙に付いた跡に従ってちぎっていったのですが、鶴の羽の形は先の方がばらけていてただでさえ大変な上、その時入手した純白の和紙には(障子用の紙だったので)若干ビニールの成分が含まれていたものですから、ちぎりにくくて実に難儀したのを覚えています。

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​ 終盤までは淡々とした調子で物語が進みます。アニメーションとしても動きは少なめで、これといった見せ場はありません。その分を最後、鶴に乗ったおじいさんの飛翔シーンで爆発させようという目論見でした。宮崎駿監督の飛翔シーンのような爽快感とは比べものになりませんが、3コマ撮りで1秒間に8枚の絵を、全て和紙のちぎり絵で動かしています。ただ、動かしすぎると和紙のテクスチャ感が目に残らず、苦労して作る割に効果的に感じられないというジレンマがありました。

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​ 今見ると意気込みばかりが目について、いささか青臭くて恥ずかしい感じがします。でも、こうした実験的な手法への挑戦を許容してくれる「まんが日本昔ばなし」という番組が存在したからこそ、様々な経験を積んで学ぶことができたのだと思います。

​ 仕事としてアニメーションを制作する上では、何とも恵まれた環境だったと感謝しています。

 日本の昔ばなしには、「おじいさんとおばあさんが…」で始まるお話が無数にあります。それは、かつて囲炉裏端で昔ばなしを子供たちに語って聞かせたのがおじいさんやおばあさんだったから、自らを主人公にして物語を展開させたのだ、というようなことがいわれます。

​ ですから最後も、おじいさんとおばあさんが幸せになるというような結末の話が多く、一方が死んでしまうという話は、あまり無いように思います。

​ そういう点では、例外的な話といえるのかもしれません。

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