

Miyoshi Kazuhiko
三善 和彦
Animation Director / Illustrator / Animator

まんが日本昔ばなし
夜中のおとむらい
平成元年12月16日放映
演出・原動画・セルワーク(彩色)・美術(背景):三善和彦
文芸:沖島勲
あらすじ
昔、山形の鶴岡に大場宇平という侍がいた。ある日仕事を終えての深夜の帰り道、弔いの行列とすれ違った。不審に思った宇平がだれの弔いか尋ねると「お馬回り二百石、大場宇平様の弔いです。」と言う。自分の弔いと聞いて驚いた宇平が慌てて家に駆け戻ると、家人は一人もおらず、家の前には送り火を焚いた跡が残っていた。
途方に暮れた宇平が城の堀端までさまよい歩いてくると、宇平の友人横山太左衛門が声をかけてきた。宇平は太左衛門にそれまでのことを話し、二人で宇平の家までやってくると、何事も無かったかのように家族が出迎え、ずうっと宇平の帰りを待っていたと言うではないか。呆然とする宇平だったが、とりあえずその場はちょっとした勘違いということで納め、太左衛門は帰宅した。
宇平の話を全て疑うこともできず、妙に心の角に引っかかっていた太左衛門の元に、数日後の朝二人の侍がやってきた。なんと宇平は昨夜遅くに屋敷に押し入った賊に切り殺されたのだと言う。弔いの行列に加わって墓場に行く途中、太左衛門は大場宇平の話した不思議な体験のことを考えていた。
と、その時「もし、これはどなたのお弔いかな?」と言う宇平の声がする。はっとして太左衛門が振り返ったが、そこにはもう誰の姿も見えなかった。宇平が見たと言っていたのは、この行列のことだったのか…と、太左衛門は初めて気付いたのだった。


原作
澤渡吉彦さん(未来社刊)の原作では、話の中心はもっぱら大場宇平が体験した不思議な出来事です。後半もあっさりと、不思議な体験をした宇平が本当に死んでしまった、あれはおいなりさんが知らせたのかも知れない…と言う人々の噂で締めくくってあります。それまで全く触れられていなかったおいなりさんがいきなり登場するので、どうも結末がスッキリと腑に落ちません。
そこで、私はこれをSFの所謂タイムスリップ物として脚色することを考えました。「まんが日本昔ばなし」にSFは場違いですから、もちろんそれは表には出さない、あくまでも裏の仕掛けです。したがってストーリーは、私が原作から大きく改変しています。まず死んでしまう宇平に代わり、物語の最後に宇平の不思議な体験の意味に気付く人物が必要です。そこで原作には一切登場しない、横山太左衛門なる人物を創作しました。
ところで主人公の姓名役職まではっきりしていることに加え、文政期の絵図を見ると鶴が岡城の北西に「大ば」と書かれた屋敷が存在します。これらのことから考えると、大場宇平というのは実在した人物なのかもしれず、さらに彼の不思議な体験も本当にあったことなのかもしれません。実際に真夜中、自分の葬式とすれ違ったらと想像してみると、それは本当に背筋が寒くなりますね。
解説
演出、作画、背景から彩色に至るまで、撮影とアフレコ以外殆ど自分でやった作品です。ざらついた画面は、全てコピーを使って制作しました。もちろん、全てアナログのセルアニメです。当時は、デジタルはありません。
背景は、木炭紙に黒いダーマトグラフで絵を描いた物を様々な色の紙にコピーし、それを部分部分に分けて張り合わせることで、独特の(例えば昔の銀盤写真に彩色したような)画面を作りました。キャラクターも同様のやり方で作画し、やはり一旦コピーしたあとで動画用紙に位置を合わせて貼り付け、(コピー機のトナーは、鉛筆の粉同様にアニメーション用のトレスマシンに反応しますので)トレスマシンでセルに複写しました。(直にセルをコピー機に手差しで入れると、位置は合いませんし、熱でベコベコになってしまいます。)
彩色は、こうすれば塗るのが楽だろうと考え、キャラクターごとに殆ど単色にしたのですが、いざやってみると来る日も来る日も同じ色の絵の具とにらめっこは本当にキツくて、これくらい単調でウンザリする作業はありませんでした。


「どなたのおとむらいか?」「大場宇平さまの」……作品中2回あるこのやり取りの場面、1度目の夜中のシーンでは、やり取りのあとに不気味な風の音が入っていてゾッとします。2度目は昼間ですがやり取りの直後、何と今度は「バタバタ」と一斉に飛び立つ鳥の羽音が入っていてドキッとするのです。
演出担当などと偉そうなことを言っても、音響に関してはほとんどノータッチ。これらはオーディオディレクターでグループ・タックの社長でもあった、故田代敦巳さんによるものです。こうした抜群の音響効果抜きに、この作品は到底考えることができません。

アフレコの際、市原さんに「このお話は意味がわかりません」とお叱りを受けたことも懐かしい想い出です。市原さんの前に進み出て恐る恐るお話しさせて頂いたところ、厳しいお顔で耳を傾けていらっしゃったのが柔和な表情に戻って一言「わかりました」と仰り、そこからは見事なお芝居で太左衛門らの声を演じて下さいました。少しでも納得がいかないものを、決して適当に演じたりはしない。市原さんのそうした姿勢に、こちらも身の引き締まる思いがしたのを覚えています。
市原さんには「まんが 日本昔ばなし」以降、学生作品へのご協力まで頂き、長い間大変お世話になりました。
撮出しと言って、撮影さんに渡す前に各カットの背景とセル画を揃えて最終確認する作業があります。それをやっていると杉井ギサブローさんが覗きに来て、「やけに陰鬱な作品作ってるねえ」と言われました。でもこれを制作した時、実は観ている人を怖がらせようとは、ほとんど考えていませんでした。ただ、不思議な話を作っているつもりでいました。
それなのに、「まんが日本昔ばなし」の中で何が一番怖い話だったかというようなテーマでは、今もなお必ずといっていいほど取り上げられます。つい最近も「時空旅人」の2021年 9月号で、「幽霊怪談日本昔ばなし 伝説のアニメ『まんが日本昔ばなし』傑作怪談」という特集に取り上げて頂きました。今も忘れずにいて下さる方がいて、こういう形で扱って頂けるとは、本当に幸せな話だと思います。