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まんが日本昔ばなし

ずいたん地蔵

昭和60年3月23日放映

演出:三善和彦

原動画:三善和彦(& BOB ANIMATION FILM)

美術(背景):長尾仁

文芸:沖島勲

あらすじ

 昔、飛騨の滑谷(なべりだに)に爺さまと婆さまが蚕を飼って暮らしていた。二人とも大変心優しく、村はずれの地蔵さまには暇あるごとにお参りして貧しい中にもお供え物を欠かさなかった。ただ爺さまは長いこと胸を患っていて、いつもひどい咳に苦しんでいた。

 

 蚕が繭を作る季節になり、猫の手も借りたいほど忙しくなったある日のこと、旅の僧が一晩泊めて欲しいと訪ねてきた。二人は喜んで迎え入れ、家の中にあるだけのものを出して蕎麦切りなどを作ってもてなした。その晩坊さまが床についてからも、二階からは二人が夜通し働く足音と、時々爺さまが苦しげに咳込む声が聞こえた。翌朝、坊さまは蚕に経を読んで加持を行い、二人に礼を言って家を出ようとすると雨が降り始めた。爺さまは笠を差し出したが、又激しく咳込んでしまう。見かねた坊さまは、お礼に咳を治して進ぜましょうと、爺さまに向かって経を読み加持を行った。すると咳はぴたりと出なくなり、爺さまは深く息を吸うことが出来るようになったと大喜びした。ところが振り返ると、もう坊さまは笠を頭にのせて雨の中を去って行くところだった。

 

 やがていつもの年よりも立派な繭が出来上がり、繭分けも済んで二人は地蔵さまにお参りに出かけた。すると、なんと地蔵さまの頭にあの坊さまに差し上げた笠が乗っているではないか。二人はようやく、実は泊まってくれた坊さまがこの地蔵さまだったことに気がついた。今もこの地蔵さまは「ずいたん地蔵」と呼ばれ、喘息に悩む人々が遠くからもお参りに来るという。「ずいたん」とは、喘息のことである。

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原作

 江馬三枝子さん(未来社刊)の原作では、主人公は仁助という百姓で、その妻とじさま・ばさまというように登場人物が大勢います。その中で、喘息がひどいのは勿論じさまです。また原作では、坊さまが泊めて欲しいとやってきた時、仁助夫婦ははたと困ってしまったが、じさまとばさまがニコニコして迎え入れたというように書かれています。このあたりは、お話をシンプルに分かり易くするため、爺さまと婆さまの老夫婦だけにしました。

 

 坊さまをもてなすために婆さまが拵えた蕎麦切りについて、「ナギ畑の粉で」とか「汁はめったに使ったことのない溜りを使い」などという表現があります。このあたりを詳しく解説できたなら、いかにも貧しい中でありったけの御馳走をしてもてなしたという感じをよく理解できて面白いところなのですが、それでは説明がくどくなってしまいます。そこで、やむなく省略せざるを得ませんでした。

 

 このあたりのバランスが、昔ばなしの本当に難しいところです。古典落語を語る落語家の方達なども、恐らく同じ様なご苦労があるのではないでしょうか。例えば「へっつい幽霊」なんて、「へっつい」が何かから噛み砕いて説明しないと始まらないですよね。

解説

 「まんが日本昔ばなし」では良くある手法ですが、動画はすべて筆で(製図用インクを付けて)描いています。動画をセルに転写するには、トレスマシンという機械を使います。動画が描かれた紙の上にセルを載せ、間にカーボン紙を挟んでトレスマシンを通過させると、黒鉛筆で書かれたところだけ、その炭素に反応してカーボン紙の黒がセルに転写されるという仕掛けです。セルに転写するトレスマシンには墨でも反応しますが、製図用インクの方が使いやすくて便利です。演出第1作の「くわばらの起こり」でも、この手法を使いました。また炭素に反応するので、コピーのトナーでも大丈夫です。ということで、コピーを利用して妙なタッチのアニメーションを作ったのが、「夜中のおとむらい」です。

 

 いろり端で猫が入って寝ているものは「猫つづら」とかいうものだそうで、何かの本で見付けて面白かったので使ってみました。「まんが日本昔ばなし」では大ベテランのフクハラ・ヒロカズさんの作品に、たびたび猫(犬のこともあります)がウロチョロと登場してくるのが何ともいえずいい味付けになっていて、自分も是非一度登場させてみたいと考えていました。

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​ この話にとりかかる前、亡くなられた俳優の萬屋錦之助さんが「徹子の部屋」か何かの番組に出演され、(身体の筋肉に力が入らなくなるという難病から復帰された時だったと思いますが)回復してきて一番嬉しかったことはという質問に、深呼吸ができたことと答えていらっしゃいました。健康体の私には思いも付かない答えだったので、深く印象に残りました。それを爺さまの喘息が治るシーンの演出で思い出し、坊さまに促されてゆっくりと深く息を吸った爺さまが、深呼吸しても咳が出ないといって、涙を流して婆さまと喜び合う場面になりました。

 

 ところで喘息のことを「ずいたん」というのは、現在の岐阜県吉城郡あたりの方言だそうです。

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​ この作品で背景を担当して下さった長尾仁さんは、大ベテランの内田好之さんのスタジオに所属する若手の背景画家でした。内田さんのスタジオにお邪魔して背景の打合せをしていた際、脇から私が描いたこの作品のイメージボードを覗き込んだ内田さんが、「三善さん、あなた自分でも背景描きなよ。あなたなら描けるよ。」と言って下さいました。

​ 背景を描くなどということは全く自信がなく、それまで考えてもみなかったことでしたが、内田さんがかけて下さった一言が私の背中を思い切り押しました。その後の作品で、何本も背景まで担当することができるようになったのは、全て内田さんから頂いたアドバイスのおかげです。内田さんは亡くなられてしまいましたが、今も忘れられない恩人です。

 紅子さんが運営されている「まんが日本昔ばなし〜データベース〜」サイトの投稿を見て驚きました。このお話のお地蔵さん、実在していて今も峠に立っていらっしゃるんですね。こちらに写真もありました。でも、この形のお地蔵様だと、光背があるので笠をかぶることは難しそうですね。

 ところで「まんが日本昔ばなし」で食事のシーンがあると、なぜか何でもおいしそうに見えます。茶碗に山盛りにされた白いご飯だけでも、妙に食欲をそそります。

​ この話の蕎麦切りも例外ではありませんね。描いた自分でも、見る度にお蕎麦をすすりたくなってしまいます。アニメの食事シーンなら何でもというわけではないのに、「まんが日本昔ばなし」の不思議の一つですね。

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