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トントンあったと にいがたの昔ばなし

しっぺい太郎

平成15年12月14日放映(BSN)

演出・作画(原動画)・仕上げ・美術(背景):三善和彦

あらすじ

 昔、琵琶の弾き語りなどして村々を回っている坊さまが、山の中で日が暮れ、偶然見つけた古いお堂で眠りについた。夜中に物音で目が覚めると、お堂の前でけだものだか化け物だか分からない黒い影が、大勢で歌ったり踊ったりしているのが見えた。ビクビクしながら身をこわばらせていると、「踊れや踊れ 月夜の晩に しっぺい太郎に 聞かしてくれるな」という奇妙な歌が聞こえてきた。やがて坊さんはウトウトと眠ってしまった。朝になって目覚めると、周りに何の痕跡もなかった。

 山を下りると村があり、祭礼の準備がされていたが、人々は皆うち沈んだ様子だった。不思議に思い坊さまが尋ねると、この村は毎年祭りの晩に十五の娘を人年貢に出す、それを桐の箱に入れて山のお堂の前に置くことになっており、今年は庄屋の娘が出されるという。坊さまは庄屋の家に行って話を聞くと、昨晩の歌を思い出し、この村にしっぺい太郎という人はいないかと聞いた。すると一人の村人が、しっぺい太郎という犬なら大工の家にいると言う。行ってみると、どう見ても頼りなさそうな犬だったが、坊さんはこの犬を庄屋の娘の代わりに桐の箱に入れてお堂の前に置くよう指示した。娘の代わりに犬を入れたので、とんでもないことが起きると村人達は恐れたが、その晩は何事もなく過ぎ、翌朝お坊様を先頭に山のお堂まで上がってくると、お堂の前で大ムジナが死んでいた。そばには傷だらけのしっぺい太郎がおり、皆一目でこの犬が大ムジナを退治したことを理解した。

​ これで二度と娘を人年貢に出す必要がなくなったと坊さまに告げられた村人達は大喜び。しっぺい太郎は庄屋の家で大事に飼われることになった。どうか村に残って欲しいと懇願された坊さまだったが、自分は一つところにいることはできないと言って、皆に感謝されながら去って行くのだった。

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原作

 この番組は基本的に新潟県内に伝わる昔話を扱っていますので、この「しっぺい太郎」も長岡に伝わる話がベースになっていますが、同じような霊犬伝説は全国各地にあります。中でも有名なのは静岡県に伝わる物語で、ですからしっぺい太郎自体が磐田市のマスコットキャラクターにもなっていますね。そちらのしっぺい太郎はいかにも賢そうな風貌で、化け物はどうやら大猿のようです。一方、長野県駒ヶ根市の光前寺にも、よく似た早太郎についての伝説が残っています。こちらも大猿みたいですが、歌の文句には「信州信濃の光前寺 早太郎には知らせるな」というように、土地名やお寺の名前まで入っています。それぞれの土地に伝わることで、その土地ごとにローカライズされていったのかもしれません。

​ 私はこの作品を、恐ろしいところは恐ろしいものとして、しかしシリアスになり過ぎないよう、最後は笑ってスッキリ終われるような話にしたいと考えました。そのため、しっぺい太郎を見かけは誠に頼りない、駄犬にしか見えない犬にしました。飼い主の大工どんも、最初はタダ飯ぐらいの怠けもんの犬だと言うのですが、それがたった一匹で大ムジナを退治してしまうと、今度は掌を返したように「おらの犬だから、賢い犬だから」と自慢し始めるのです。そういう「遊び」の部分を味付けとして加えていったのですが、バランスとしてはどうだったでしょうか。改めて見直してみると、その辺がなかなか難しい話だったなと思っています。

解説

 絵の作り方は、「まんが日本昔ばなし」の「夜中のおとむらい」の手法を、今度はデジタルに応用したものです。表面がざらついた木炭紙に黒いダーマトグラフで絵を描き、それをスキャンしてPhotoshopで着彩しました。当時の私は、まだAEを使いこなせていなかったので、撮影だけはグループ・タックにお願いしましたが、撮影に必要な素材はキャラクターも背景も、全て私が一人でデジタルで制作しています。

 夜のシーンは怖さを演出する意味からも青系統の数色だけに押さえていますが、昼間のシーンはそれとの違いを際立たせるため敢えてカラフルにしています。この辺りの色使いは、「夜中のおとむらい」と異なるところです。

 この作品ではもう一つ、試みたことがあります。登場人物を、全て正面向きだけで撮っていることです。横顔のカットや、横を向くというような動作は一切ありません。正面向きか、さもなければ真後ろ向きかのいずれかです。そういう縛りを敢えて掛けてコンテを切ってみました。無理をしている感じが画面に出てしまうかと思いましたが、そんな感じは全くなく、結構面白い画面造りができたように思います。

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 「まんが日本昔ばなし」が終わる少し前、私はMacintosh Quadra800を購入し、デジタルで絵を描くことを覚えようとしました。やがて「まんが日本昔ばなし」の制作が終了すると、入れ替わるようにイラストの仕事が忙しくなったこともあり、アニメーションからは数年間離れていました。

 

 ところがこの「トントンあったと にいがたの昔ばなし」で再びグループ・タックから声をかけていただいたら、その間にアニメーションの現場もすっかりデジタルに変わっていて、この間にイラストの仕事で身につけたデジタル技術がそのままアニメーションでも活かせるようになっていました。私にとっては、アニメーションから離れていた数年間に、デジタルをしっかり身につけられたことはとてもラッキーでした。

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​ アニメーションがデジタルで制作されるようになった当初、どうしてもデジタルっぽさが目についてしまうのが気になって仕方がありませんでした。テレビ自体も画面がどんどん大きくなってきた頃です。大きな画面いっぱいにキャラクターの口とか目とか、顔の一部がドアップで写り、そうなると画面のほぼ全面がデジタルの単色のべた塗りなどという、当時のアニメーションではそんな不自然な画面がよく見られました。私にはこういう画面は、どうにも受け入れがたく感じられました。

​ どこかにアナログの手作り感が伝わるような絵にしたいと、そんなことを考えながらいろいろ模索していた中で生まれた作品です。

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